寺田寅彦「田園雑感」(1921年)より。
田舎では草も木も石も人間くさい呼吸をして四方から私に話しかけ私に取りすがるが、都会ではぎっしり詰まった満員電車の乗客でも川原の石ころどうしのように黙ってめいめいが自分の事を考えている。
(岩波文庫『寺田寅彦随筆集第一巻』1963年)
田舍では草も木も石も人間臭い呼吸をして四方から私に話しかけ私に取りすがるが、都會ではぎつしり詰つた滿員電車の乘客でも磧の石塊同士のやうに默つて銘々が自分󠄁の事を考へて居る。
(岩波書店『寺田寅彦全集第一巻』1950年)